【言葉選び】オズの魔法使い
出題者:きいみ◆[8990a05]
<はじめに>
この問題はある実話をモチーフにしています。
<問題編>
審査員席のダニエルは、本日、六度目となるため息をついた。
急ごしらえの舞台の上では、真紅の衣装に身を包んだ若い女性が、どれほど歌手になりたいかということを、上ずった声でアピールしている。
ただし、その目はダニエルの隣に座っている端正な顔立ちをした若い俳優に釘付けだ。
だから、審査員などしたくなかったのだ。
オズの魔法使いの主人公、ドロシーの故郷とされるカンザス州。
このカンザス州の空模様と同じく、ダニエルの心は、昨晩からどんよりと曇っていた。
熱に浮かされたようにしゃべる女性を見ていると、昨晩のホテルでの悪夢が脳裏によみがえる。
昨日の昼、ダニエルを含めた審査員全員は現地入りし、空港からまっすぐに伸びている道を二時間ほど車に揺られたあと、会場から程近い川沿いのホテルにチェックインした。
名のあるオーディションの地区予選ということもあり、明朝からゆっくりと審査を行えるようにという主催者側の配慮だったのだが、それが裏目に出た。
ダニエルたちが泊まったホテルの情報がどこからか漏れ、なんとか有名人に会おうと、近隣の住民がホテルに押しかけたのだ。
おかげで、あまり顔の知られていない音楽プロデューサーのダニエルまで、スタッフの手伝いに駆り出される羽目になった。旅の疲れをおくびにも見せず、丁寧に握手をしたり、一緒に写真を撮ったり、終始にこやかに対応していた俳優達には畏敬の念すら覚える。
「只今から三十分休憩となります」
スピーカーからそう流れるやいなや、ダニエルはすぐさま席を立った。
人で溢れていた喫煙所をさけ、脇目もふらず廊下を突っ切って出口の扉を押し開ける。
新鮮な空気でも吸わないとやっていられない。
とその途端、ダニエルが開けた扉の隙間から、ブロンドの髪を束ねた少女が滑り込んできた。
そばかすの残る顔立ちは幼く、十代前半にみえる。
「あの、マリーの番、もう終わっちゃったのかな?」
スタッフと間違えたのだろう、ぼんやりと立っていたダニエルに不安そうに尋ねる。
幼い口調に似合わない大人びた声が印象的だ。
ダニエルは少女の胸に付けられた番号札を目で確認した。七二〇番。
「君の番はまだだ。それに今は休憩中だから急がなくても大丈夫だよ」
「ああ、よかった」
そういうと、少女は息を荒げたまま床にへたり込んだ。
「寝坊かい?」
「ううん、さっきまで牛のお世話してた」
なるほど。牧畜が盛んなところなので、父親の手伝いというところか。
ぎりぎりまで手伝ってから必死に走ってきたのだろう。
休憩時間はまだ長い。ダニエルはもう少しこの少女と話すことにした。
「普段は他に何しているの?」
「ええとね、歌をうたったりとか、絵を描いたりとか、いろんな写真撮ったりしてるよ」
愛くるしい表情にダニエルは和んだ。
人と話すのが好きで仕様がないという感じだ。
玉のような汗をかいてはいるが、会場まで走って来られたということは、昨夜のホテルから近いところに住んでいるということだ。
ひょっとすると、昨夜の騒ぎの中にこの少女もいたのかもしれない。
昨日の人たちが有名人と交流できたことで、こんな素敵な笑顔になれたのであれば、ダニエルの努力も無駄ではなかった気がした。
「ふうん。ところで、昨夜は有名人の写真は撮れたかい?」
マリーは頭を振ってこう答えた。
「あのねー、□が□□□□□から写真撮ってない」
思わぬ答えに、思わずダニエルは笑みをこぼした。
<問題>
マリーの台詞にあった、
□が□□□□□から
の四角に入る文字を、文中からそれぞれ抜き出して埋めてください。
解答例: 煙が立っていたから
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。
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